三、想像にまかせる
夢にジャミングが走った。
一人暮らしをしていたころから、たびたびそういう不連続な夢の境界線が走ったことがあった。隼人はまた例のか、と思った。彼にとっては日常茶飯事の出来事だった。
心のことは、どうなっただろう。いつか見た、そびえ立つ塔のことを思う。彼は夢のなかでジゼルとテレーゼを生み出し、会っていたのだ。その塔の下で、彼は彼女たちと待ち合わせをする。子どもの頃に見た白黒映画のワンシーンのような出会いがそこにはあった。
ジゼルはボーイッシュな女性だ。朱色の髪が短く整っていて、緑か青のインナーに白のオーバーオールをいつも着ている。目をきりっとさせ、いつも隼人の話を注意深く聴いている。彼女の投げかける質問は、語る立場の隼人をしばしば興奮させた。テレーゼは物静かな女性だった。ふんわりとした栗色の髪をなびかせ、カフェオレを飲みながら黙って隼人の話を聴いている。たまに投げかける疑問は、一聞するとへんてこなものに聞こえたが、あとから考えてみると、深い意味を持っているものが多かった。赤いシャツを着て黒いスーツをくたびらせている彼女は、難しいものをそれとなく受け止めそれとなく理解しているひとのように思えた。
その日、ジゼルとテレーゼに一講義を終えると、隼人はそびえ立つ塔をあとにした。しかし、そこでことが起きた。
「やあ、フェアリーテイル。元気かい?」
隼人は後ろから何者かに身体をつかまれ、羽交い絞めにされた。「何者か」彼は唸った。抵抗するべくもなく、その者の言うことを聞くしかなかった。
「私が見えるかね。影が見えるかね。私のことは、タイムアタッカーと認識しておいてほしい。時間を攻撃する者、という意味だよ。簡単だろう? いまから君に特効スタンガンで素敵な世界にトリップしてもらう」
バチバチと放電するそれは、それを認識した瞬間に、隼人は現世界から消え去ってしまった。
あの頃が懐かしい。心のなかで描いていた風景がよりどころだったあの頃が、とても懐かしい。できることなら、もう一度、否、何度もあのそびえ立つ塔のもとへ行ってジゼルとテレーゼに会いたいものだ。夢に妨害電波(ジャミング)が走ったあの日から、私は想像ができない。この脳に残っている影が夢などと今の私は思いたくはない。フェアリーテイル、「誰も分からない出来事」はやはり封印するべきなのか。
なぜそいつが、一体なんのために、とひとびとは言う。だが、私はあえて追求しない。そうしたら、そいつの存在を仮にとはいえ認めてしまうことになるだろう? だから、タイムアタッカーがどう、とかいまさら議論してもしょうがないことなのだ。だから、あの日のことは、君の想像にまかせるよ。