[ブルームーンの下で]3.レッド・サイクロン

私は、独学で気象学…地球を取り巻く風と水について、必死に学んだ。彼女に会えると信じて。

「災害に遭ったひとのためにできること」

それは、ひとを佑ける心がないとできないこと。私の国(畏国)では、国の気象に関した専門機関と言えるものがなかった。たまに隣の国(鶏国)から、二人の専門家が視察してくるくらいだ。彼らの名を、ナギアとミツヨシと言った。

「サルーイン君。君の研究は素晴らしい」

ミツヨシは、どこか権威的だった。

「サルーイン君。君を認めよう」

ナギアも、どこか権威的だった。私はイムペリアル大学から、鶏国にある、ファイ研究所に異動した。

 

 

“コスモポリタン”

「地球市民」という意味だ。当時の科学者たちがよく使っていた言葉だった。

そう…。

「当時」のことを思い浮かべると、涙が出る。私は、「当時」の科学者だった。厳密に言うと、気象学者だった。政府から多額の研究費をもらい、異常気象を解明するのが我々の使命であり、存在意義だった。

 

 

「当時」の世界は、ひどく退廃していた。年数を重ねるごとに上がる地球の平均気温。それに反比例の如く減ってゆく子どもたち。

 

地球のほんの一部、表面で行われているひとの営みを見るに、争いごとが絶えなかった。核兵器に、領有権、難民移住、テロリズム…。荒廃した大地の上で、我々は醜いことをしていた。そこで我々科学者は立ちあがった。【コスモポリタン】の提唱である。

 

 

【コスモポリタン】は元々、我々気象学者が立ち上げた組織だった。【コスモポリタン】は、WMO(世界気象機関)の認可が降り、晴れて鶏国の気象専門機関となった。私は、畏国にも気象専門機関を作りたかった。ナギアとミツヨシは、鶏国から来た私の同僚だった。

 

 

「サルーイン君。君は一体何をしようと?」

ミツヨシは、唐突に私の目的に触れた。

「この星の運命に、意味を与えんとするのか?」

ナギアは、だいぶ後に私の目的に触れた。思えば、この時から私は遥か向こうの世界にいたのかもしれない。

 

スカーレット!君はいまどこにいるんだ?

 

私の本来の叫び声は、次第に遠ざかっていった。私の同僚が、ナギアとミツヨシが殺された。【コスモポリタン】内部でクーデターがあったらしい。起こした者たちは、自分たちのことを、【レッド・サイクロン】と名乗った。私は役職を剥奪され、足が浮いたような状況になった。まるでナヴィエ・ストークス方程式を初めて目にした、流体力学の、初学者のように。

投稿者: lute369

生きている限り、学ぶこと。それが私のすることです。 Dum spiro,disco.

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