『見返りを求めない、彼による無償の愛が世界を救った。秩序などこの世界には元々なかったのだ。複雑である方が、人生というものだ。私たちは自然についてなにも知らないし、だからこそ探究することが大事である。生きることは大変ではあるが、大変だからこそヒトである証なのだ。未来のことなど分からない。どんなに苦しくても、手を取り合うだけで、道は拓かれている。
ラム・サルーインは、そうしてこの世界から去っていった。彼は、わたしのために、残されたコスモポリタンのために、全てを託して宇宙の彼方へ旅立った。そこはまぎれもない、見返りのなさそうな、それでいて厚く信頼している証でもあるのだ。事実をありのままに受け止める。それは自然への至高な、愛のかたち。のどなしの彼にできたことは―――。
―――全てを愛することだけ、だった』
スカーレット・サルーイン著:
読解・【コスモポリタン】より
私は、【コスモポリタン】の原稿を読んでいた。ねぇあなた、いま、どこでなにをしているの?あなたの声が聴きたくて、しょうがないの。私はあの日から毎晩、泣いていた。脱出ポッドで地球の海に堕ちた、あの日から。私は、いままでなにをやってきたのだろう?宇宙物理?いえ、なんかもっと訴えかけるなにか…。色、が問題だったの?星は、赤いか青い?私が見える月は、赤かった。「赤方偏移」?いいえ、ちがうわ。遠ざかってゆくのは、悪い虫だけでいいの。私は彼を、信じたいの…。あなたが信じた、「わたし」と「コスモポリタン」のことを。愛しい、この世界を。あなたが愛した、この世界を。そして、わたしが愛する、あなたのことを。
「宙へ逝ってしまったあなたに、どうすればいい?」
答えは分かっているわ。思い続けることが、こんなにも大事なことだと、あなたから教わったのだもの。忘れません。ひとは、大切なひとを愛することで、いつまでも、どこまでも生きることができることを知りました。私は、あなたのしてきたことを振り返りながら、私のしてきたことを振り返りました。たくさんの愛をありがとうございます。私が生きている限り、あなたは生きています。私が死んでも、あなたは永遠に語り継がれます。だから少しでも…。あなたのお側に居させてください。いつまでも、あなたに恋をしていたいのです。これもひとつの、愛のかたち。あなたのことを、ずっと愛しているわ。いつまでも、いつまでも…。
“ありがとう、スカーレット。君の緋色の明りで、ぼくは帰ってこれる。ぼくたちが生まれた、故郷に。母星へ。地球へ。全てが愛しい、あの青い月が照らす地球へ。君が信じた、いや、君が信じている、《スカーレット》へ。赤は、離れる色じゃない。愛を結ぶためだ。君の緋色がキレイだよ。ハートマークはどうして赤く描かれる?女性はどうしていつも赤く象徴される?男性はどうして青く象徴される?言っただろう?
《空のように、君を守ってみせる》と。
ブルームーンの下で、一緒に生きよう。だから、もう泣かなくていいんだよ”
私は地球への流れに合わせて、トリガーを引いた。