いつものようにプログラミングを行なっていた、私は文字列の意味を探る。使っている言語は、Pythonだ。コロンの意味。適切な長さのインデント。やがて文字列の意味を知ったとき、感銘を受ける。それはほぼどんな言語でも当てはまる。Pythonでも、LaTeXでも、英語でも、ラテン語でも、数学でも、物理学でも、和歌でも。これらは私にとって見れば全て「言語」だ。
「ハロー、プロンプト」
モニタ越しに彼は挨拶をする。プロンプトとは、私の名前だ。彼は、私の言葉を待っている。その間、黒画面のモニタにカーソルは点滅していた。カーソルを彼の顔に合わせると、彼のステータスが現れる。
Name:セバスチャン
Place:宇宙辞典
Lv:28/99
STR:11/99
DEX:78/99
INT:89/99
LUCK:5/20
彼は毎朝、昔の詩人が残した言葉と太陽系の惑星の写真を添付したメールで私のもとに送ってくれる。今朝は、ピーター・ガブリエルの詩集「大雪」第二巻129行から引用したものだった。
ああ、朔風よ!
あなたはどうしてしおれたユリのように弱弱しいのか? 憂うつそうにどうして我らを運んでいかぬ? なぜ頭をもたげ落ち込んでいるのか、私は知りたい、知ってしまったら何が起きるのか、あなたは私を蠱惑的な花弁で包んで種とするのか
写真は、金星のものだった。ここのところ、妙に彼は私に「薬」を要求する。先の引用から更にそう読み取れる。引用中の「ユリ」は彼による隠喩で、彼自身のことを指す。
「ハロー、プロンプト」
彼は繰り返す。私は、黒画面の外にある「ワクチン」をドラッグアンドドロップして彼に「与えた」。
「ハロー、プロンプト」
いったい彼は、黒画面から私をどう見ているのだろう。真意を探るべく、私は黒画面にテキストを入力した。
>>>Do you need more vactine?
しかし、返ってくるのは、
「ハロー、プロンプト」
だった。やりとりに変化を与えよう。私は黒画面にテキストを更に入力した。
>>>Dear セバスチャン
流体力学者Aよ、よく聞きなさい。私たちにコンソールなど必要ないわ。必要なのは、あなたの賢いお頭と、私の力だけ。いまから添付する写真のところまで私が訪れるから、あなたは黙って私の位置情報を取得するの。chatGPTやなんだかよく分からないAIキットよりも賢くて役に立つあなたなら簡単でしょう?私の口調が女性ぽくなっているのは、私が性別を偽っているせいではないわ。単に大事なことを伝えようとしているからよ。これから私は流体力学者Bになるわ。
あなたがあなたの病気を治すの、いい?それじゃあ、また10秒後に会いましょう。
私は、球面調和関数のCGグラフィックデータを添付して、静かに黒画面を閉じた。