
ぱたりと旅の記録を閉じ、僕はもう一度、銅像を見上げた。
「これが、あの像だったなんて…」 思わず声が漏れる。
確かに、この記録の通りに、世界は変わった。ロステンバウムの森は再び緑が満ち、木々はかつてよりも力強く枝を伸ばした。ゴルドクーンの近くの砂嵐は止み、砂漠の地に小さな草花が芽吹き始めた。そして蟻地獄は完全に消え、旅人たちは安全に行き来できるようになった。リンクスの湖は水で満たされ、湖面は太陽を映して輝いた。世界から、「影」が消えたのだ!
世界は、本来の姿を取り戻しただけではなく、「可能性も命も奪われない世界」へと変わった。彼女が残したものは、世界のどこにでも息づいていた。人々は手をとりあい、互いの可能性を信じ、自分たちの未来を自分たちで編んでいった。それは、彼女が旅のなかでずっとしてきたことなんだ。
大切な友のために、シュシュを編む。
その行為が、世界の形を変えたのだ。
僕は願った、彼女が、あちらでもシュシュを作り続け、多くのひとに勇気を与えているということを。そう、かくいう僕も、実は彼女に勇気づけられて、ここまで来れたんだ。最近僕は、司書ギルドに入門して、多くの旅の記録を…彼女のように「編む」ことを始めた。やっぱり、彼女を含めた多くの旅人の記録を無駄にはしたくならないからね。新入りだから、緊張も失敗続きだ。でも―――。
ふと、彼女の名前を呼ぶ。
銅像の上のほうに添えられたシュシュが風に揺れる。そして聞こえた気がした。
大丈夫、と。
今度は、僕自身の旅の記録を閉じよう。これから旅をして…その旅で、また大切な何かを見出そうとしてゆく彼らのために。
―――ありがとう、旅は、これからなのだ。