「どんなものでもかまわない」 喫煙室から出てきてソファに座りながら河合はそう言った。ソファ。喫茶店の奥にある、VIP席で、僕と河合は面談していた。 「本当にどんなものでもかまわない」 河合は両手をテーブルにのせ、組み、そ続きを読む “世界へのデビュー”
カテゴリーアーカイブ: 読書
「雲に君見む」の世界
どうぞお楽しみに。
「雲に君見む」2-1
二、音楽祭 さあ、ジゼルにテレーゼ。出番だよ。 隼人の書く小説によく登場する二人の女性の名前。函館湾を一望するカフェのマストレスは言った。 「隼人さんの書く話に出てくるひとの名前は、みなお洒落ですよね。小説が出来上がっ続きを読む “「雲に君見む」2-1”
「雲に君見む」1-5
いま、日本海は走っていないけれど。隼人の心のなかでは、富山湾と函館湾をいつでも往復することができる。大学生だった頃を、たまに思い出す。つらい思い出も確かにある。そんな時に隼人はよくアエネーイスの一節を好んで引いたものだっ続きを読む “「雲に君見む」1-5”
「雲に君見む」1-4
富山県の大学に通っていたころを思い出した。 あのころ、おれは生きていただろうか? 熱中できたことはあっただろうか? また、難しい問いが隼人を考えさせる。大学生だったころは、友人が、悩みすぎる彼を見かねて、よくビリヤードを続きを読む “「雲に君見む」1-4”
春雨のご様子
冬の後、夏の前に。ウェルという季節に、雨が降った。 先々週に、リリィという女性と会った時のことだ。私は店に傘を置き忘れた。このことは一体何を意味するのだろう。あまり深く考えない方が良いようだが、私はものごとを深く考える職続きを読む “春雨のご様子”
冬の後、夏の前
その名は、「ウェル」という名の青年でした。 彼はどこからともなく現れます。アテーナイの街にやって来たウェルは、住民の願いで道をふさぐ岩を破壊する仕事に就きました。岩を破壊する、と言っても、掘削機で岩を削るようなことはしま続きを読む “冬の後、夏の前”
排水溝の夢を見た。
ガラスは、いつまでも輝くことはない。同じように、夜は、いつまでも孤独であることを強いることはない。私たちとその周りは、絶えず変化していて、立ち止まることはない。「いつまでも」なんて、ないのだ。いま享受している幸福も、身に続きを読む “排水溝の夢を見た。”
「雲に君見む」1-3
一瞬の出来事だった。瞬間的に見えた「白と黒の世界」は、強烈に隼人の網膜に写された。彼は立ち眩みを起こしたが、なんとか持ちこたえ、書籍棚の側についている手すりにつかまった。 「パン屋にいこう。ちょうど空腹だし」 書店をあと続きを読む “「雲に君見む」1-3”
「雲に君見む」1-2
北斗市・函館市は、近年ふしぎな店がオープンしつつあった。隼人は自動車免許更新の帰りに、大規模書店へ寄った。入口にあるカフェでエスプレッソを注文すると、真っすぐに理学系のコーナーへ急いだ。その向かうさまは、まさにエスプレッ続きを読む “「雲に君見む」1-2”