5月も半ば、毎年この時期はわくわくする。わくわくに辛い思い出は必ず伴うものだけど、いまの時期は特別だ。起きる時間は早めで6時くらい。寝る時間は遅くて0時くらい。日光が自然と私を目覚めさせ、眠くなってきたら自然に眠る。そういう生活が、この時期には自然と続くのだ。
「おはようございます」
計算機所長が、部屋のドアをノックする。彼はプログラムされた通りに動いでいるのでは決してない。自分の意志で、動いて…いや、生活しているのだ。今日も彼は私に「ノベル」を持ってくる。
「開いているよ」
やがて、彼は入って来る。…自律型ロボットとか、高度なAIとか思われるかもしれないが、彼は人間だ。かつて私の所属していた学術機関の計算機センターの所長をしていて、いまはわけあって私のところに居る…わけだ。
「今日の『ノベル』は、5件ありました。ジャンルはどれもつけがたいですが、できたての一品です。あなたは続きを楽しむのでしょう、最高の朝食になるでしょうね」
「ありがとう、もうお腹が空いてきた。その例え、好きだよ」
ざっと5件の「ノベル」を見通す。「ノベル」は論文ではない。小説でもない。詩でもない。レポートでも、箇条書きですらない。明確な「ノベル」の定義はないのだ。
まず、1件目。
「ボクらは、鼻毛の周りをまわっていた。すごく太いそれは、毎日、ボクらを幸せにする。伸びてきたって、太くったって、目立ったっていいじゃないか。細かいところに注目しないでいれば、みんな幸せだった」
次に、2件目。
「はぐれイルカのジョニーは、3月に死んだことが分かった。仲間のみんなは、みんな泣いて、泣きまくった。みんなは、1週間だけ喪に服したが、その後はジョニーは思い出になり、伝説になった。彼らは、ジョニーの物語を作ろうとした」
3件目。
「ある日、王子ステファンは言いました。『私は王子ではない。玉子なのだ』。みんなのステファンに対しての印象ががらりと変わり、王子の支持率は13%から7%になりました。6%も支持率が下がる王子は、史上ステファンしかいません。王立協会会長のゴドフリは、王家の者を使って、ステファンが本物の玉子なのか調べることにしました」
…4件目。
「私を愛して。私に必要なのは、孤独と狂気だけなの」
最後の、5件目。
「冒険家・太郎は、今日はアルデンブルグへ目指す。これは、しがない冒険家・太郎の、欺瞞に満ちたミステリである」
「ノベル」は、いつも変わり種が多い。私は、2件目が一番気になったが、他のも気にはなった。
「最近、お笑いが流行っているのか?」私は所長に問うが、彼は少し落ち込んでこう答えた。
「みんな、ぎりぎりの稜線を狙っているのだろう、とは思いますよ。矛盾が大好きなあなたにとって見れば、どれも宝物でしょう」